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発注者が書く要件定義とRFP:「思っていたものと違う」を防ぐために、何を書き、何を書かないか

システム開発の要件定義とRFP(提案依頼書)を、発注者の立場で解説。納期も予算も守られたのに満足されないプロジェクトが2割ある——その差を生む『発注者しか書けない4つのこと』、そのまま使えるRFPの最小構成、過剰な仕様指定がなぜ提案の質を下げるのか、検収条件を発注前に書く理由までを、公開されている実測データに基づいて整理します。

公開日
読了時間
11分
著者
友田 陽大
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発注者が書くべきは仕様ではありません。「困っていること」です。 そして困っていることは、開発会社には絶対に書けません——それを知っているのは現場にいるあなただけだからです。

この記事は、システム開発を外注するときに発注者側が用意する要件定義とRFP(提案依頼書)を、「何を書くか」より先に**「何は書けて、何は書けないか」から整理します。発注全体の流れはシステム開発の発注 完全ガイドを、金額の話は費用相場総コストを参照してください。本稿は着手前に発注者が書く文書**に集中します。


1. データが示す「本当の失敗」は、納期でも予算でもない

まず、要件定義に時間を割く理由をデータで確認します。

日経コンピュータのプロジェクト実態調査(2018年3月1日号)では、1,745件のシステム導入/刷新プロジェクトのうち成功は52.8%、失敗は47.2%でした。ここでの「成功」はスケジュール・コスト・満足度の3条件をすべて満たしたものです。

一方、同じ調査シリーズの2014年10月16日号では、成功を「当初予定していた品質・予算・納期(QCD)を順守できた」と定義したところ、成功率は**75%**でした。

定義の差を並べるとこうなります。

成功の定義成功率調査
QCD(品質・予算・納期)を順守75%日経コンピュータ 2014年10月16日号
スケジュール・コスト・満足度52.8%日経コンピュータ 2018年3月1日号(1,745件)

調査年も母集団も違うので単純な引き算はできません。それでも、この2つの数字が同じ方向を指していることは読み取れます。

納期と予算は守られたのに、使う人が満足していない。

これが「発注の失敗」の実像に最も近い姿です。システムが落ちたわけでも、予算を超えたわけでもない。できあがったものが、求めていたものと違った。 そしてこれは技術の問題ではなく、着手前に何を伝えたかの問題です。

IPAの集計では、プロジェクトの工期の中央値は10.1ヵ月(N=1,396)。その10ヶ月の行き先を決めるのは、最初の数週間に交わした文書です。


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2. 発注者しか書けない4つのこと

要件定義を「難しそうな技術文書」だと思うと手が止まります。発注者が書くべき部分は技術文書ではありません。業務の事実です。

分担はこう考えてください。

書く人中身
業務の事実発注者誰が・いつ・何に困り・今どう回避しているか
解決の設計開発会社どんな画面・データ構造・処理で解くか

発注者が解決の設計まで書こうとすると、開発会社の知見を使えなくなります。逆に業務の事実を渡さなければ、開発会社は推測で作るしかありません。「思っていたものと違う」は、ほぼこの受け渡しの失敗です。

発注者しか書けない4つを、具体的に見ます。

2-1. 誰が使うのか(役割と人数)

「社員が使います」では足りません。役割ごとに分けて、人数を書く。

受注担当 3名(毎日/PC)、倉庫スタッフ 8名(毎日/スマホ・手袋着用)、経理 1名(月末のみ/PC)、社長 1名(週1回/スマホ)

倉庫スタッフが手袋をしていることは、開発会社には推測できません。しかしそれが分かれば、ボタンの大きさも、入力方式も、設計が変わります。役割ごとに「いつ・どの端末で」を添えるだけで、提案の精度が上がります。

2-2. いま何に困っているのか(症状であって、解決策ではない)

ここが最も重要で、最も間違えやすい場所です。

❌ 解決策で書く✅ 症状で書く
「在庫管理システムが欲しい」「在庫数を電話で倉庫に確認していて、1日30分かかる。しかも聞いた時点の数字なので、受注後に欠品が判明することが月に2〜3回ある」
「顧客管理をデータベース化したい」「担当者ごとにExcelで顧客リストを持っていて、退職時に引き継げなかったことがある」
「スマホ対応してほしい」「現場から事務所に戻らないと入力できないので、報告が翌日になる」

右列を渡された開発会社は、左列では出てこなかった解決策を提案できます。「在庫管理システム」ではなく「受注画面に倉庫の実数を出すだけで足りる」という提案かもしれません。安く済むほうの答えは、症状を渡さないと出てきません。

2-3. いま、どう回避しているのか

困りごとには、たいてい現場の回避策がついています。二重入力、手書きのメモ、特定の人しか知らないExcelのマクロ、締め日前の残業。

この回避策こそ、要件の実体です。 回避策を書き出すと、次の2つが同時に分かります。

  • 本当に困っている度合い(毎日30分の回避 vs 月1回の回避)
  • 移行時に消える手順(その回避策を前提に別の業務が回っていないか)

回避策を書かずに発注すると、システムは正しく作られたのに、現場が回避策を手放せずに二重運用になる——という失敗が起きます。

2-4. やらないこと

範囲を狭める記述は、範囲を広げる記述より価値があります。

今回やらないこと:会計ソフトとの連携、スマホアプリ(Webのみ)、複数拠点対応(本社のみ)、過去3年より前のデータ移行

「やらないこと」が書いてあると、見積もりの前提が揃います。書いていないと、各社が勝手に違う前提を置き、金額が比較できなくなります。相見積もりを取るなら、この項目は必須です(相見積もりの取り方も参照)。


3. RFP(提案依頼書)の最小構成

RFPは分厚いほど良い、というのは誤解です。A4で3〜5枚あれば十分で、必要なのは網羅性ではなく、判断に必要な情報が揃っていることです。

最小構成は7項目です。

1. 背景と目的
   - 事業の状況と、このシステムで達成したいこと(売上/時間/リスクのどれか)
2. 現状の業務と困りごと
   - 2-1〜2-3 で書き出したもの
3. 対象範囲と、今回やらないこと
   - 2-4 で書き出したもの
4. 利用者と規模
   - 役割別の人数、想定データ件数(受注 月◯件、商品 ◯点 など)
5. 予算レンジと希望時期
   - 「未定」ではなくレンジで。時期は「◯月の繁忙期前」など理由つきで
6. 提案してほしい内容
   - 体制、工程とマイルストーン、見積内訳、前提条件と除外事項、保守の範囲
7. 選定基準と選定スケジュール
   - 何を重視して選ぶか、いつ決めるか

予算を書くべきか——書いてください

「予算を書くと足元を見られる」と考えて伏せる方がいますが、逆効果です。予算レンジが無いと、開発会社は外す確率を下げるために大きめの構成で提案します。結果として全社の見積もりが高止まりし、比較もできません。

レンジで書けば、開発会社はその範囲で何ができるかを設計して提案します。「300〜500万円で、優先度の高いところから」と書けば、優先順位の提案が返ってきます。それは発注者にとって最も有用な情報です。

提案の受け取り方も書く

「見積内訳」「前提条件と除外事項」を明示的に求めてください。求めないと総額だけの紙が返ってきて、何が含まれているか読めない見積もりを比較する羽目になります。


4. 書いてはいけないこと——過剰な仕様指定

RFPで最も損をする書き方は、理由のない技術指定です。

「データベースはMySQLでお願いします」

こう書いた瞬間、より適した選択肢を持っている会社も、黙ってMySQLで見積もります。提案の幅が消え、あなたは自分の知識の範囲でしか答えを受け取れなくなります。開発会社に払っているのは、まさにその知識に対してです。

制約がある場合は、指定ではなく理由を書いてください。

❌ 指定だけ✅ 理由つき
「DBはMySQLで」「既存の基幹システムがMySQLで、日次でデータ連携が必要です」
「AWSで構築してください」「社内規程でデータの国内保管が必須です」
「React で作ってください」「将来的に社内の担当者が軽微な修正をしたく、その人がReactを読めます」

理由が書いてあれば、開発会社はその制約を満たす複数の案を出せます。指定だけだと、一案しか返ってきません。そして「理由が言えない指定」は、たいていどこかで聞いた話であって、あなたの業務要件ではありません。

同じことが画面の指定にも言えます。「この画面にこのボタンを」と描き込むより、「この作業を3クリック以内で終わらせたい」と書くほうが、良い設計が返ってきます。


5. 曖昧さを残していい場所と、潰すべき場所

要件は全部固める必要はありません。固めるべき場所と、固めなくていい場所があります。

固める(発注前に決める)曖昧でよい(走りながら決める)
対象範囲と、やらないこと画面の細かいレイアウト
役割と権限(誰が何を見られるか)ボタンの文言・色
扱うデータの種類と量一覧の並び順・絞り込み条件
法令・社内規程の制約帳票の細かい書式
検収条件(次章)将来の拡張機能

左列はあとから変えると設計をやり直すことになるもの、右列は動くものを見てから決めたほうが良いものです。

とくに「役割と権限」は左列である点に注意してください。「あとで権限を分けたい」は、データ構造そのものを変える作業になり得ます。逆に、画面のレイアウトを発注前に固めようとすると、時間ばかりかかって精度は上がりません。

そして——固まっていない箇所は、固まっていないと書いてください。 伏せたまま固定価格の見積もりを求めると、開発会社は不確実性の分を上乗せするか、安く見積もって後から追加請求するかのどちらかになります。どちらも発注者の損です。契約形態の選び方は請負と準委任の使い分けにまとめています。


6. 検収条件を、発注前に書く

最後に、最も後回しにされ、最も揉める項目です。

「何ができたら完成とみなすか」を、契約前に文章にしてください。 稼働後に決めようとすると、決めるのは必ず立場の強い側になります。

書き方のコツは、機能を列挙しないことです。業務がひと回りすることを確認する形にします。

❌ 機能の列挙✅ 業務でなぞる
「受注登録機能があること」「受注担当が電話で受けた注文を登録すると、翌朝の出荷リストに反映されている」
「在庫管理機能があること」「出荷を確定すると在庫が減り、受注画面の在庫数がその値になっている」
「権限管理機能があること」「倉庫スタッフのアカウントで、他社の受注が見えない」

右列は、そのまま検収の手順書になります。検収日に「これで完成ですか?」と問われて困ることがなくなり、開発会社にとってもゴールが明確になります。双方にとって得です。

3つ目の例のように、セキュリティの確認も業務の形で書けます。「他の会社のデータが見えないこと」は、権限設計が正しいかを確かめる検収項目であり、あとから直すと最も高くつく箇所でもあります。


まとめ:発注者の仕事は「事実を渡すこと」

3点に畳みます。

  1. 本当の失敗は「納期も予算も守られたのに満足されない」こと。 QCD定義なら成功率75%、満足度を含めると52.8%。この差が要件定義の失敗そのものです。
  2. 発注者が書くのは業務の事実、開発会社が書くのは解決の設計。 誰が・いつ・何に困り・今どう回避しているか——この4つは、あなたにしか書けません。
  3. 指定ではなく理由を書く。 理由を書けば複数案が返り、指定だけだと一案しか返りません。

要件定義は、技術文書を書く作業ではなく、現場で起きていることを言葉にする作業です。それができていれば、A4で3〜5枚のRFPで十分に良い提案が集まります。

書き出す前の整理に使えるよう、発注前チェックリストを用意しています。「うちの場合は何を書けばいいか」を一緒に整理したい場合は、無料DX診断(30分)で、困りごとの棚卸しから優先順位づけまでお手伝いします。

よくある質問

要件定義は発注者と開発会社のどちらがやるものですか?
分担です。発注者が書くのは『業務の事実』——誰が、いつ、何に困っていて、今どう回避しているか。開発会社が書くのは『解決の設計』——それをどんな画面・データ構造・処理で解くか。発注者が解決策まで書こうとすると、開発会社の知見を使えなくなります。逆に業務の事実を渡さないと、開発会社は推測で作るしかなく、『思っていたものと違う』が発生します。書けないものを無理に書くより、書けるものを正確に書くほうが結果は良くなります。
RFP(提案依頼書)には何を書けばいいですか?
最小構成は7つです。(1) 事業の背景と、このシステムで達成したいこと (2) 現在の業務フローと困りごと (3) 対象範囲と、今回やらないこと (4) 想定利用者と規模(人数・件数) (5) 予算レンジと希望時期 (6) 提案してほしい内容(体制・工程・見積内訳・前提条件) (7) 選定基準と選定スケジュール。A4で3〜5枚あれば十分です。分厚さは提案の質を上げません。
技術やデータベースを指定して書くべきですか?
理由が言えないなら書かないでください。「DBはMySQLで」と指定した瞬間、より適した選択肢を持っている会社も黙って合わせるだけになり、提案の幅が消えます。書くべきなのは制約の理由です——「既存の基幹システムがOracleなので連携が必要」「社内にPHPを読める担当がいるので引き継ぎたい」。理由を書けば、開発会社はその制約を満たす複数案を出せます。指定だけを書くと、一案しか返ってきません。
要件が固まっていない段階でRFPを出してもいいですか?
出していいですし、そのほうが健全なことも多いです。ただし『固まっていない』ことを明記してください。固まっていない箇所を伏せたまま固定価格の見積もりを求めると、開発会社はリスク分を上乗せするか、安く見積もって後から追加請求するかのどちらかになります。不確実な部分は準委任(工数ベース)で小さく始め、固まった部分から請負に切り替えるハイブリッドが現実的です。
検収条件はいつ決めるべきですか?
発注前です。契約書を交わす前に『何ができたら完成とみなすか』を文章にしてください。稼働後に決めようとすると、決めるのは必ず立場の強い側になります。書き方は機能の列挙ではなく業務が回ることの確認が有効です——「登録した受注が翌日の出荷リストに反映される」のように、実際の業務手順でなぞれる形にしておくと、検収作業そのものが短く済みます。

参考文献

友田

友田 陽大

経済産業大臣賞 受賞プロダクト開発者。TypeScript + Python + AWS で、SaaS・業界DX・実用レベルの生成AI(RAG)を、要件定義からインフラ・運用まで一人で完遂します。

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